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プロローグ -- 本編 12 ・ 3
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         番外編 1
2-2

ヒトとは不思議なもので20分も経てば、
ここまで打ち解けられるものかと言うほど、私たちは言葉を交わしていた。
交友を深めるのに必要なのは一緒にいる時間ではなく、交わす言葉の量ということなのだろうか。
私が殺めてきた数々の命もこのように言葉を交わすことが出来れば、
失われることなどなかったのだろうか。
いや、考えても、もはやどうしようもないこと。
それ以前に私に彼らことを悼む資格さえない。ダメだ、この思考はカット。
とりあえずわかったことは、彼女の名前はセラフィ・ロストガーデン。
これは本当の名前ではないそうだ。
それというのも、彼女は今記憶があやふやなようで、名前すら思い出せないそうだ。
普通、記憶を失ったらもう少し錯乱したりするものかと思ったが、
平然と笑みを浮かべられるもののようだ。ヒトとは本当に不思議なものである。

「ほら、また人の話聞いてない。ティルテュは色々と考えすぎだよ?」
再び怒られる。このやり取りはもう4度目だ。
だが、そう言われても癖なので仕方がない。

「すみません、何の話でしたっけ」

「隣町で誘拐事件があったって話。市長の娘さんがさらわれたらしくて、
うちのギルドにも裏口で依頼が入ってるみたいだよ」
どう思う?とこちらに視線を向けるセラ。

「誘拐事件……それだと私に回ってくるかもしれませんね。
この手の事件はあまり得手としないのですけど」
ふと、溜め息を漏らす。今日はよく幸せが逃げる日である。

確かに私なら、犯人が立て篭もっていても狙撃が出来るし、
隠密行動は得意とすることではあるのだが、
長期戦になることが多く、魔力の絶対量が少ない私には少々辛いことになる。
私の持つ魔具『アキューデント』は魔力消費は少ない方ではあるが、
2日以上続けての任務になると魔力が底を尽き、魔具の具現化も侭ならなくなる。
燃費が悪い短距離型なのだ。しかし、不得手な理由はもう一つあって……。

「それじゃ、仕事が回ってきたら私も手伝おっか?」

飛び込んできた言葉が、すぐには理解できなかった。

「……いきなり何を言い出すのですか。
貴方はギルドの一員じゃないし、そもそも戦えないでしょう?」
慌てて言葉を紡ぐ。セラを仕事に巻き込むわけにもいかない。

「んにゃ、一応自分の身を守るくらいは全然大丈夫だよ。足手まといにならない自信はあるけど」
表情を見る限りでは虚勢には見えない。本当のことなのだろう……だけど。

 「それでも、セラを巻き込みたくはないです。私たちの仕事は綺麗なものではありません。
この、今サンドイッチを持ち、珈琲カップを掴んだ、この手は沢山の命を、未来を奪ってきた手です。
貴方まで私のようにはさせたくない」

これは本音だ。

真摯な私の目から少しも目を逸らすことなく、彼女は口を開く。笑顔のままで。

「別に構わないよ?特に気にすることでもないし」

「……今、何と?」その言葉がどういうことを意味しているのか、わからない、
いや、わかりたくはない。凍りついた私の感情にお構いなく、彼女は言葉を続ける。

「ヒトを殺すことがあるってことでしょ?そんなに気にすること?」
あっさりとそう口にして、眉根を寄せ、本当に不思議そうな表情をしている。

「……それは」それ以上、言葉にならない。

否定したい。だが、私に否定することは出来るか?
そんな風に命を見るな、扱うな、なんて偉そうに言える立場か?
頷くしかない、だが、頷いていいのか?
頷くことは私が奪ってきた命から目を背けることになる。
彼らの今まであった過去を、これからなされるべきだった未来を、奪ったこの業からも。
そうすることが出来れば、と何度願ったことだろうか。
解放されたいと、何度苦悶したことか。
それでも死ぬことは出来ない、背負わなければならないと決意したのはいつだったか。

「……私は」口を開く。思考は、感情はまだ混沌としていたけれど。

「あ〜、悪いけど、ちょっといい?」その時、場の雰囲気にそぐわない声が掛けられた。
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